虚栄の繁栄か、真実の清貧か―。


池井戸 潤の新作『七つの会議』(日本経済新聞出版社)は、不正な手段によって業績を伸ばしてきた会社が、それがバレそうになるとリコール隠しに走り、ついには自滅していく物語です。『空飛ぶタイや』に通底する企業悪を衝いた作品です。
なぜ、不正に走るのか。
社長は、右肩上がりの成長と株主利益を守るためにモラルを捨て、実績のために魂を売ってしまい、不正に荷担した社員、社運を賭して隠蔽に走る社員は、組織のために魂を売ってしまったのです。
このような「虚栄の繁栄」の対極にあるのが、「真実の清貧」です。
主人公のお父親は、広島弁で次のように語ります。
「仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる。客を大事にせん商売は滅びる」
顧客を大切にしない行為、顧客を裏切る行為こそ、自らの首を絞めることになるというこの作品の主張は、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(岩波書店)が明らかにした惨事便乗型資本主義に対する批判にもなっています。

2012・11・23 会員M