『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春ジブリ文庫)を読む


スタジオジブリ編集部『熱風』7月号の「憲法改正特集」を読み、宮崎駿監督の新作「風立ちぬ」を観た直後に本書を手にして、時宜に適した出版だと、改めて思いました。
83歳の「軍艦野郎」半藤さんと、72歳の「遅れてきた軍国少年」宮崎さんは、「風立ちぬ」から漱石の「草枕」そして原発など、自由自在に語り合っています。
 
「風立ちぬ」からなにを学ぶかといったら、「負け戦のときは負け戦のなかで一生懸命生きるしかない、というようなことでしょうか」と語る宮崎さんの言葉が印象的でした。
この映画に込められた反軍思想は再発見でした。宮崎さんの、航空参謀源田実に対する怒りは相当なものです。東京大空襲をやらせたカーチス・ルメイ司令官に勲章をあげるよう運動した男だからです。映画では会議のシーンは出さず、軍人が関与してくる場面の音声は雑音で処理したというのです。
宮崎映画の愛好者の一部には、「風の谷のナウシカ」以降の宮崎映画は変わったという意見も見受けられますが、「風立ちぬ」に込められた監督の意図は、明確に伝わって来ました。

「腰ぬけの愛国論」も頷ける考えです。「日本は脇役でいいんです。小国主義でいいんです」という半藤さんに宮崎さんは、「ぼくは情けないほうが、勇ましくないほうがいいと思います」と応じます。
山田洋次監督の映画「馬鹿が戦車でやって来る」ではないですが、得意気に戦車に乗っている安倍首相が目指している方向は、昭和10年の国策スローガン「進め日の丸 つづけ国民」(『黙って働き 笑って納税 戦時国策スローガン傑作100選』)の再現であるだけに、「腰ぬけの愛国論」は大切な視点だと思います。
 
  福島第一原発の事故のとき宮崎さんは、「あれを支えていた体制が『旧軍』とちっとも変わっていなかったことに気づいて、吐き気がしました」と語っています。「またぞろ原発再稼働だなどと、ほんとうにくだらないことを言いはじめています。むしろ原発を廃炉にするための技術開発にとり組んだほうがいい」という半藤さんの意見が、国民の多数だと思います。

宮崎さんの映画が、多くの人たちから支持されている理由を、垣間見た気がしました。

  2013・9・2 会員M